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シュールで楽しい科学コンテンツ [科学・技術]

scince_flask.png長い休校で暇を持て余している子供達のために、科学技術広報研究会(国立研究所や大学などの広報担当有志連合)が開設したまとめサイトがある。さまざまな科学教材動画を陳列したページで、片っ端からじっくり目を通せばかなり見応えがありそうだ。研究機関が自前で製作した作品はさすがにオーソドックスな科学番組が多いが、舶来品の吹き替えか国産かを問わずアニメ製作のプロが入ったエンタメ系シリーズも充実している。私がざっと眺めて気に入った動画の中で、とくに「これは・・・」と息を呑んだ異色作をいくつか紹介したい。

まずは、基礎生物学研究所が公開するプラナリアの切断・再生動画だ。プラナリアは小川の石の裏などに棲む小さな生き物で、顕微鏡で観察すると寄り目がちのつぶらな瞳が愛くるしい。動画ではこともあろうかプラナリアの胴体を躊躇なく3分割するので、可憐なルックスに萌えてしまった人にはいささか衝撃映像かもしれない。だが心配するなかれ、尻尾の破片からは徐々に頭が、頭の破片からは尻尾が成長し、やがて3匹の個体として再生する。全身に全能性幹細胞を持つプラナリアならではの芸当で、幹細胞といえばiPS細胞による再生医療や創薬研究がたけなわの昨今、時代の最先端を行く知る人ぞ知る隠れスターである。



自分でプラナリアを増やしてみたくなった人には、『Planarian Planet(プラナリアをバーチャルに切ってみよう!)』がおすすめだ。大型科研費・新学術領域「三次元構造を再構築する再生原理の解明」プロジェクトの企画のようで、PCやスマホの画面上で好きなだけプラナリアを裁断できるゲーム感覚のアプリだ。刻まれたプラナリアの再生過程や泳ぎっぷりのリアルさが絶妙で、地味ながらジワジワ来る非日常感がたまらない。成長が完了するまで多少時間がかかるのでしばらく放っておいたら、気がつくと画面いっぱい無数のプラナリアがうごめいていた。子供がハマって黙々とプラナリアを切りまくるのも良いが、やりすぎると精神の健康に影を落とさないか少し気になる。

研究機関とは一線を画す自由な着想で異彩を放つのが、日本科学未来館である。かつて企画展の一コンテンツとして発表されたという『整腸ラップ』がすごい。アニメをラップに乗せておけば若者ウケするだろうという安易な発想か、などと侮ってはいけない。家庭医学的な要素はもちろん、エンタメとしてのクオリティにも妥協を許さない見事な完成度である。便秘とか腸内環境に問題を抱える大人も、見ておいて損はない。ただし、タイトルから薄々想像されると思うが「Un! Chi-e」とか連呼されるので、食事時や満員電車内の視聴はあまりお薦めしない。



最後に、同じく日本科学未来館の問題作『フカシギの数え方』を紹介しよう。魔法陣のようなマス目のヘリを伝って左上から右下までたどり着く経路を数える問題で、2×2のマスなら12通り、3×3なら184通り、と次第に大きなマス目へと移って行く。たったそれだけなのだが、お姉さんが二人の子供を前に解説するのどかなシチュエーションに気を抜いてはいけない。やがて想像のはるか斜め上へ暴走を始めるまさかの展開に、度肝を抜かれるだろう。わざとリアリティを抑制した平面的な絵柄、次第に明るみになるお姉さんの底知れぬ狂気、何の前触れもなく挿入される脈絡不明の実写映像など、身近な数学の不思議をここまでシュールに昇華させた怪作を私は他に知らない。



科学技術広報研究会のサイトからは、国立天文台や科学未来館など広報部門の充実している組織にまぎれて、科研費プロジェクトによる個性的なアウトリーチ活動の健闘ぶりが垣間見える。個人的にはそのあたりが新たな発見であった。大人は大人でいろいろ勉強になるサイトである。

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