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番外編:オーバーシュートってなんだ? [科学・技術]

figure_question.pngクラスター、オーバーシュート、ロックダウン。新型コロナの専門家会議は、幻惑的なカタカナ用語がお好きだ。

「オーバーシュート」の意味を巡り、理系オタクの間でネットがちょっとざわついている。専門家会議の提言では、オーバーシュートは爆発的患者急増と説明され、欧州諸国で見られるような感染者の指数関数的増加が引き合いに出されている。一方多くの科学分野では、オーバーシュートというと到達すべき平衡点を行き過ぎてしまう現象を指すことが多く、数学的ニュアンスが異なる。言葉の使い方がちょっと私らの感覚と違う、というのがざわつきの理由だ。

疫学のオーバーシュートってそういうものか?と昼休みにつまみ食い程度ちょっと調べてみた。どうやら、社会が集団免疫を獲得する過程で理論上必要な数を上回る感染者を出してしまうとき、その過剰分のことをオーバーシュートと呼んでいるらしい(このサイトが参考になった)。簡単な数理モデルにも見られる現象で、これなら確かにオーバーシュートの語感に馴染む。オーバーシュートを最小限に抑えるような政策設計は重要な疫学課題の1つらしいので、専門家会議の関心事であることは確かだと思うが、感染拡大期の爆発的患者急増を指してオーバーシュートと呼ぶのは少々語弊がありそうである。

揚げ足を取るのは本意でないが、意味が曖昧なまま専門用語を流行らせない方がいい。「クラスターと呼ばれる集団感染が…」とニュースでよく報道されるが、「集団と呼ばれる集団感染が…」と言っているのと変わらない。新しい用語を使えば新しい概念を理解できるようになるわけではない。むしろ、誰にでも通じる言葉で説明できるかどうかが理解の証である、と確かリチャード・ファインマンが言っていた。

ついでに物理学者の名言をもう一つ。「誰も知らなかったことを誰にでもわかる言葉で語るのが科学なら、誰でも知っていることを誰にもわからない言葉で語るのが詩だ」と放言したのはポール・ディラックである(詩人の皆様ごめんなさい)。何はともあれ専門家会議は詩人会ではないので、要所々々で見慣れぬカタカナ語をぶち込むのは控えたほうが良いのでは。

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