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番外編:続「8割減?」 [科学・技術]

以前このブログで、メディアは人出8割減と接触8割減を混同している感があると書いた。専門家会議の5月1日提言書(PDF)を読むと、専門家会議はもちろん人出と接触の意味をはっきり区別している。ただ分析手法の裏付けが微妙で、少しモヤっとしている。

提言の中で、「接触頻度=接触率✕人流」という概念式が出てくる。人流はいわゆる人出のことである。外出自粛が進むと、人流(出歩いている人口)が減ると同時に接触率(出歩いている人が他の出歩いている人と出会う確率)も同じくらいのペースで減るので、接触頻度(感染リスク)はおおむね人出の2乗に比例して減るはずだ、というのが以前のブログで指摘したポイントだ。提言書では、年齢群別の接触頻度(に相当する数値)を調査し地域ごとの8割減達成度を評価した。だが提言書の脚注1から類推するに、今回の報告では接触率を実際に見積もることは断念し、代替的な方法で接触頻度を出しているらしい。

提言書の補足資料の3ページに、ある年齢群どうしが出会う接触頻度を算出する式が出てくる。tijが年齢群ijの接触頻度、kiは調査区画に出歩いていた年齢群iの人口である。math_contactfreq.png説明を簡単にするため年齢群が若者と中高年の2つだけとすると、ある地域で若者が中高年とすれ違う接触頻度は「(出歩く若者人口)✕(出歩く中高年人口)÷(出歩く若者人口+出歩く中高年人口)」を時空間にわたり積算して求まる、というのが数式の意味だ。これが理屈の上では「接触率✕人流」に相当するというのが専門家会議の分析の立場のようだが、ほんとうにそうなっているか?(私が何か見落としているかも知れないが)どうもそうなっていないように見える。

物理や化学をかじった人は、分子衝突理論との類似から接触頻度というとこんな式を思い浮かべるのではないか。math_contactfreq2.pngvは人が歩く平均速度(歩くのが速いほど多くの人とすれ違う)、σは人がどこまで近づけば接触とみなすかの目安(分子運動論などで言う衝突断面積)である。これら比例定数は「○割減」と自粛前後を比較するとき約分されて消えるので気にしなくて良い。つまり接触頻度の増減は、基本的に「(出歩く若者人口)✕(出歩く中高年人口)」のような乗算で決まる。上に引用した専門家会議の推定式は、これと似ているが右辺の分母が余計である。なぜ総人口で割り算してしまうのか?この除算のせいで、人出の概ね2乗を反映するはずが実質1乗になっている。結果的に、ここでも図らずして接触8割減と人出8割減の混同が起こっている気配がある。実際の接触頻度は、出てきた数値よりもっと順当に減っていたのではないだろうか。

ところで、半専門的な補足資料をわざわざ一般向けに作成するクラスター対策班の努力に、ちょっと感動した。このような情報開示のおかげで、素人にも考える機会が与えられる。

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