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アルファ株とデルタ株 [科学・技術]

第5波が猛威を振るう今、ラスボス感満載のデルタ株が幅を利かせている。その話に入る前に、春先のアルファ株の動向を振り返っておきたい。いまやすっかり忘れられているが、デルタ株(旧インド株)が変異株のセンターを奪うまでは、アルファ株(旧英国株)がコロナ最強のヒールとして脚光を浴びていた。昨年末くらいからイギリスを中心に騒がれ始め、感染力が従来株より3割強いと言われる。

COVID-variants.jpg東京都モニタリング会議(第58回)の資料に、興味深いデータが示されている。変異株が占める割合の推移を示すグラフだ(ところどころ原図に注釈を入れてある)。アルファ株とデルタ株それぞれについて、都内の遺伝子解析で陽性が初めて確認された週を起点とした時系列になっている。破線のアルファ株に着目すると、第1週(今年の1月11-16日)から10週間にわたり床を這うように低値安定だったが、11週目から突然上昇し20週目には90%近くに至った。11週目は3月下旬にあたり、第4波が大阪で猛威を奮い始めた時期と一致する。大阪から持ち込まれたアルファ株が起爆剤になったのかも知れない。

ここで2つの疑問が生じる。なぜ東京都のアルファ株は、発見後2ヶ月以上ものあいだ潜伏したまま拡がらなかったのか?そしてなぜ東京の第4波は、アルファ株の置き代わりが進んだにもかかわらず大阪に比べて「不発」に終わったのか?要は、アルファ株は前評判ほどのワルではなかった、ということではないか。従来株よりいくらかでも感染力が強ければ、感染拡大の局面では変異株が従来株に置き換わっていくのは数学的に自明だ。だがそれは必ずしも、変異株が感染拡大の主要因であったことを意味しない。東京の動向に関しては、データから判断する限りアルファ株が大半を占めるようになったのは緩やかな第4波の結果に過ぎず、アルファ株に深刻な急拡大をもたらすほどの威力があったとは言い難い。

さてデルタ株は、アルファ株の1.5倍、従来株の2倍の感染力と言われる。上図によれば、都内で存在が確認されたのち速やかに置き換わりが進んでいる。第5波の兆候が始まった6月下旬に先立ち顕著な上昇が始まり、直近で80%強に達している。この間、新規感染者数そのものだけでなくその増加率も緩やかに上昇しているので、デルタ株が積極的に感染拡大を加速させていると解釈しても矛盾はない。基本的に受け身であったアルファ株とはだいぶ様相が違うようである。アルファ株のときはメディアや「専門家」の前のめりなメッセージに少し不信感があったが、デルタ株はブレイクスルー感染の話も含め、確かに面倒臭そうなヤツではある。

もし人流が変わらないなら、変異株の占有率が100%に達した以降は、理屈の上では増加率の上昇は止まる(感染者数そのものは増え続ける)。手元で東京の疫学データを見ているが、たしかに五輪が始まった7月末辺りから増加率が頭打ちになっている気配もある。ただもう少し動向を見続けないと結論は出せないので、これについては機会を改めて考えたい。

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