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ベリー、ベリー、ケアフル [海外文化]

sport_baseball_bat.pngタイガース・エンジェルス戦で打席に立った大谷翔平選手を評し、テレビ解説を努めたジャック・モリス氏が「Be very, very careful」と呟いて炎上した。モリス氏はかつてタイガースで活躍した往年の名ピッチャーであり、「ここはとてもとても慎重に投げないと」と打者大谷の実力を高く評価するコメントである。非難を浴びた理由は発言そのものではなく、その口ぶりにある。アジア系の訛りを真似たことがアジア人蔑視と見做され、モリス氏の地元局出演は無期限停止処分となった。

ビリー・アイリッシュさんが似たような動画流出で謝罪に追い込まれた案件が、記憶に新しい。コロナ関連でアジア系差別が増加している背景もあるのか、英語の訛りを揶揄することはマイノリティを見下すタブーという認識が定着しているようだ。言葉をからかわれ辛い思春期を過ごしたアジア系米国人は、確かに不愉快な思いをしたも知れない。やらなくても良いことをやってしまった失態であることに変わりはないが、「ベリー、ベリー、ケアフル」一言で番組降板を宣告されるとは、なかなか手厳しい。

ところでこの話を聞いたときに浮かんだ素朴な疑問は、一般アメリカ人が「日本人の」訛りを本当に再現できるのか、ということだ。今もやっているか知らないが、大谷選手がエンジェルスで活躍し始めた頃、メジャーリーグの解説者がよく「オータニ・サーン!」と叫んでいた。日本の野球中継で、選手を「さん」付けで呼ぶことはまずない。「おれ、ちょっと日本の習慣とか知ってるぜ」的な無邪気さがスベっているのである。たぶん、アジア人はみな出会い頭に合掌一礼していると思っているタイプではないか。彼らに日系と中国系と韓国系の英語訛りを判別できるとは思えない。

そこでモリス氏の問題発言を実際に聞くと、どうもインド系英語を模倣している気配がある。米国のインド系移民は数が多いので彼らの英語を耳にする機会が多い上、アクセントが特徴的なので真似されやすい。イントネーションが平板な日本語訛りとは、明らかに違う。無粋な物真似をやる以前の問題として、アジア系を一緒くたに括ってスルーでいいのか?モリス氏の失態を批判的に伝える意識高い系メディアも、アジア言語間の違いを検知できていない点では五十歩百歩である。彼らにとっては、オータニサンの祖国が東アジアなのか南アジアなのか、たぶんどうでも良いのではないか。アジアの言語学的多様性に関する無知の方が、「ベリー、ベリー、ケアフル」より根深い文化的偏見のような気がする。

ちなみに本件について訊かれた大谷選手ご本人は、「(問題の場面は)動画で聞いたが(モリス氏の)処分について自分が言うところではないし、個人的には気にしていない、影響力のある方なので難しいところがあるのかなと思う」と答えた。相変わらずソツのない紳士である。

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