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第7波の実効再生産数 [科学・技術]

第7波の全国新規感染者数があっさりと第6波のピークを越えた。オミクロン変異株BA.5の仕業と言われている。もともと感染の早いオミクロン株のなかでも、とくに感染力が強いのだそうだ。だが話はそう簡単ではない気もする。

ERN210722.png最近あまり聞かなくなったが、以前は実効再生産数という言葉をよく耳にした。一人の感染者が平均何人に感染すかの指標ということである。東洋経済オンラインのサイトで、実効再生産数をルーチン的に算出している。直近の全国の感染者数データから求めた実効再生産数が右図だ。第7波では7月11日に最大値1.25に達した後、徐々に下がり始めている。二言目には「感染拡大の加速が止まりません」とか「感染拡大に歯止めがかかりません」と連呼するメディアが少なくないが、拡大は続いているもののもはや加速はしていない。この傾向がそのまま続けば、7月中には1を切る(すなわちピークを過ぎる)のではないかと思う。

第6波以前は、感染拡大期の実効再生産数は1.5から2くらいに達していた。それに比べると今回は1.3未満と控えめだ。理由の一つは、上記東洋経済のサイトでは計算上必要な平均世代時間の仮定がデルタ株以前は5日だったのがオミクロン時代(2022年1月1日以降)は2日に短縮されたことにある。世代時間とは、感染した人が別の人に二次感染するまでに要する時間のことである。オミクロン株は感染から感染へ回転が速くなっているので、一人が感染させる人数が少なくても急速に広まりやすい。逆に言えば、感染拡大率が顕著でも世代時間が短いぶん実効再生産数は低めに出る。ただし既にオミクロン株想定で計算していた第6波の実効再生産数が最大2くらいに達していたことを考えると、(今のところは)最大でも1.2~1.3に過ぎないBA.5が何をもって「感染力が強い」と言われているのか、考え出すとよくわからない。

家族で感染してしまった話を身近でも聞くようになったし、オレゴンの世界陸上で日本選手団が複数の感染者を出したりと、小規模なクラスターがあちこちで発生していることは間違いない。それはそれで厄介ではあるが、数多のプチ・クラスターを含めてなお実効再生産数が1.3未満に抑えられているのであれば、逆に市中感染はたいして拡がっていないのではという憶測も成り立つ。世界的には、日本に先行して感染拡大した独仏伊など欧州大陸組と、日本よりずっと落ち着いている英米加など、傾向は真っ二つに割れている。何がこの違いを生み出しているんだろう?新型コロナの疫学は未だにわからないことばかりだ。

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