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積乱雲が湛える水 [科学・技術]

正月にテレビで『天気の子』を見ていたら、積乱雲ひとつに湖ぐらいの水が含まれててさ、というセリフが出てきた。だから雲の中を魚が泳いでいても不思議はない、とは面白い発想だなあと関心したが、そう言われると確かめたくなってくる(魚がいるかではなくて、水の量を)。ネットで同じ疑問に解説が付いていて、積乱雲中の水量はドラム缶数千万本分だそうだが、そう言われても実感がわかない。

平均的な雲が含む水の量は、1立方メートルあたり10分の1グラム(0.1g/m3)かせいぜいその数倍くらいだ。ただし雨雲になると水量は増え、積乱雲では一桁増しに達するという。積乱雲の雲水量を1g/m3とし、雲層の厚さを10kmとすると、雲中の水を丸ごとストンと雨にして落とすと地表面1m2あたり10kgの水が貯まり、水深1cmという計算になる。積乱雲の寿命は30分から1時間位だから、1時間雨量に換算して10から20mmほどだ(瞬間的な降雨強度ではもう少し高値になるかもしれない)。気象庁の基準では「やや強い雨」に相当し、地面からの跳ね返りで足が濡れ一面に水たまりができるくらいとのことで、孤立積乱雲(夕立のような驟雨)としてはまあそんなものだろう。『天気の子』でも、かなとこ雲を伴う孤立積乱雲の美しい立ち姿が何度も遠景に描かれていた。

しかし水深1cmでは、湖としては浅すぎる。平均水深10mくらいは欲しい。雲は横幅が大きいので、ギュッとかき集めて狭い場所に落とし込めば水深をかせぐことができる。立派な積乱雲は差し渡し10kmくらい(水平断面100km2ほど)になるので、これを0.1km2のエリアに詰め込めば深さ10mの水量になる。おおよそ300m四方くらいの大きさで、思ったより小振りな湖だ。どんな魚が住んでいるだろう?

uyuni_enko.png水深1cmでは浅すぎると書いたが、世界に一つだけぴったりの場所があることに気がついた。ボリビアのウユニ塩湖だ。雨のあと純白の塩湖に薄く水が張って、鏡のように空を映し出す。雲の水が天から降って、そっくりそのまま湖に化ける。わざわざ計算しなくても「積乱雲一つに湖ぐらいの水が含まれて」いる美しい証が、意外なところにあった。

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