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コップに水が半分 [科学・技術]

「東京で新たに〇〇人の感染者が出ました、これで9日連続で100人を超えています」という報道をよく耳にする。感染者数が3桁か2桁かという違いに何の必然性もないので(たまたま私たちが10進法で物を数えるから100がキリ番になるだけ)、9日連続という分析もまるで意味をなさない。逆に「4日連続で150人を下回りました」というような言い方もできるはずだ。データは同じなのに、言い方次第でメッセージが全然違う。コップに水が半分しかないと嘆くか、半分も残っていると喜ぶか。メディアは外出自粛に引き締めを呼びかける責任を感じているのか、コロナ報道に関しては悲観的な物言いを好むようである。

緊急事態宣言がGW明けに解除されるのか延長されるのか、政府の判断に注目が集まっている。あと2週間弱でコロナが消えて無くなるとは誰も期待していないと思うが、せめて感染拡大のペースは鈍ってくれていないものか?連日100人越え、などと日々聞かされ続けるが、感染者100人が100人増えて200人になるのと、1000人に100人足して1100人になるのでは、同じ100人増でも100%アップと10%アップで実態はかなり違う。医療機関の収容能力に照らすなら感染者の絶対数が肝心だが、感染拡大の実態把握には新規感染者を感染者総数で割ったパーセンテージ(感染拡大率)のほうが相応しい指標である。数学的には、感染拡大率は感染倍化時間(感染者が倍増するのにかかる時間)に反比例する(倍加時間=ln2÷感染拡大率)。

これまでも何度か見てきたが、直近の傾向を含めた感染拡大率(5日移動平均と元データ)の推移は図のようになる(これまで同様データ源はここ)。COVID19-growthJpn0425.png元データ(点線)は統計が曜日にも影響されるので波があるが、平滑化すればおよそ10日前から感染拡大率が10%から4%まで顕著に減っており、感染拡大の鈍化は明らかだ。この期間で感染倍加時間は約7日から約17日に改善した計算になる。なおこのデータは新規感染者の増加率であって、罹患から回復した「一抜け」患者数は加味されていない。回復率を差し引いた正味の感染拡大率はさらにゼロに近いはずであり、拡大鈍化が順調に続くなら感染拡大から縮小へ転じる日はそれほど遠くない(と先週も書いたが、この「拡大鈍化が続くなら」が実現するかがミソである)。

米国では無作為抽出の抗体検査が始まっており、カリフォルニア州の調査では人口の約2%から5%前後の人に感染履歴があるとされ、ニューヨーク州ではその値が14%(ニューヨーク市内に限れば21%)に上ると発表された。PCR検査で確認された感染者数の何十倍にも上る数値であり、これが正しければ膨大な数の感染者が見過ごされていることになる。抗体検査の精度には疑問の声もあり、また偽陽性の影響もあるかと思うので、いくらか過大評価かも知れない。だがPCR検査では無症状感染者の大部分は検査対象に上がってこないので、(私の自由研究でもずっとボトルネックだったのだが)検査陽性者の背後に見えていない感染者が相当数いること自体は間違いない。その意味でも、PCR検査で一日〇〇人陽性という数値に惑わされない方がいい。母数で割った拡大率のほうが、感染の実態を(完璧ではないにせよ)より的確に捉えている。

専門家会議によれば、緊急事態宣言の延長を判断する基準として(1)新規感染者数の増減(2)接触八割減の達成度(3)医療の逼迫状況の3点が重視されるという(東京新聞)。(1)については、感染拡大は続いているがそのペースは着実に落ち着きつつあることを上で見た。(2)についてだが、人出8割減と接触8割減の意味が混同されていることを先日指摘した。人出が6割減れば接触は8割以上減っている可能性もあり、人出8割減を判断条件とするのは高めのハードルである。穿った見方をすれば、専門家会議はその辺りの混同を黙認(利用)しているのかもしれない。現実の状況としては(3)が一番深刻ではないかと思う。

GW(誰だったかガマンウィークと呼んでいた)明けに緊急事態宣言が解除されるのか?まず無理だろう、という悲観論が大勢を占めているようである。客観的な現状分析に基き延長がやむを得ないなら仕方ないが、こんなに頑張ってるのに何も好転しないのか、と暗鬱な思いに沈む人も多いだろう。地元の商店街が買い物客でごった返しているとか、湘南で県外ナンバー車が渋滞を引き起こしているとか、テレビを点けるたび自粛の緩みを連日叱られている気分だ。でも多くの人は接触減に努力しているし、それはきちんとデータに表われている。「ステイホーム」キャンペーンが長期化するしないは別として、皆さんよく頑張ってますよ、というメッセージがもっと飛び交ってもいいんじゃないか。

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