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ソフトバンクの抗体検査 [科学・技術]

medical_koutai_kensa_kit.pngアンジャッシュ渡部氏のインパクトに喰われたかあまり大きなニュースになっていないが、ソフトバンクが対象者4万人を超える大々的なコロナ抗体検査の結果を発表した。結果は191人が陽性で検査母数の0.43%にあたり、先だって発表された厚労省や東大が実施した小規模な抗体検査とほぼ同じ陽性率である。検査対象のうち5850人の医療従事者に絞れば陽性率は1.79%に上り、それ以外の一般対象者については0.23%とのことだ。

ソフトバンクは、1時間半を超える対談形式のプレゼンを動画に上げている。長いので要所要所をざっと見ただけだが、注目点の一つは自前で検査キットを検証し結果を丁寧に紹介していることである。特異度(陰性検体を陰性と判定する確率)が事実上100%であり、理屈の上では偽陽性の混入はまずない。0.4%程度の数値が偽陽性と区別し難かった厚労省のレポートと違い、0.43%や0.23%という陽性率が定量的に意味を持つようになったことは進歩だ。交叉反応(似て非なるウイルス抗体の誤検出)も無いとしている。抗体検査の話になると脊髄反射的に精度不十分と斬り捨てる専門家もおられるが、素人目には精度の懸念は一応クリアされているように見える。感度(陽性を陽性と判定する確率)はINNOVITA社のキットで9割弱なので、実際の陽性率をいくらか過小評価している傾向はありそうだ。

ソフトバンク検査の対象者は医療従事者と自社関係者なので、必ずしも日本国民の無作為抽出とは言えない。それでも4万人に及ぶ検体がたまたま陰性ばかりに偏ったとは考えにくいので、国内の抗体保持者が現時点で人口の1%に満たないことはどうやら確かのようである。数%から時に10%を超える数値も飛び交う欧米の抗体検査結果に比べれば、一桁ないし二桁近く低い。日本は欧米諸国より人口あたりコロナ死者数も一桁から二桁少ないので、筋が通っていると言えば通っている。でも、なぜ日本はかくも感染が広がらないのか。結局、マスク着用と外出自粛に勤む律儀な国民性が、感染抑止に効いたということか(ファクターXの話)?理由はともかく死者数が少ないのは安心材料だが、集団免疫への道のりは果てしなく遠いというジレンマもある。

一方、不顕性ないし軽症のコロナ感染者は自然免疫が機能し重症化を防いでいたという説がある。ウイルスにしてみれば、ラスボスにたどり着く前に前哨にやられたという感じか。自然免疫で早々に退治されたウイルスに対して獲得免疫ができにくいとすれば、コロナ抗体保持者が思ったよりずっと少ない説明はつく。自然免疫が一定数の人に十分な効力を発揮しているとすれば、人口の約6割が抗体を持つまで感染は広がるという集団免疫の話もハードルが緩和される可能性がある。私は専門知識がないのでよく分からないが、第2波にどう備えるかという戦略の前提としてこの辺りの理解が整理されることを願う。

仮に自然免疫説が正しいとして、なぜ人によって重症化したりしなかったりするのかという疑問が残る。何故そのような生体防御機構がコロナ犠牲者の多い欧米諸国の人々には充分に働かなかったのか。ニューヨーク市立大学で教鞭を取る友人からつい先日聞いた話では、彼の授業を取った学生の20%が新型コロナ罹患を経験し、大学全体で高齢の教授4人がコロナで亡くなったということである。2万を超える人が亡くなり抗体検査で2割陽性を出した街の現実が垣間見える、衝撃の数値である。

アジア人は遺伝的にコロナに罹りにくいのでは、という仮説もある。アジア諸国の多くは日本以上に人口あたりコロナ死亡率が低く、欧米との差は顕著である。だが、欧米内部を行き交う人流に比べて欧米とアジア間は人の移動が少ないから、感染源の流入が少なくて済んだという解釈もできる。実際、オーストラリアやニュージーランドは人種構成は欧米に近いが死亡率はアジア諸国並みに低い。地理的な距離のみならず、政治的・経済的なしがらみが薄いことが入国制限をかけやすい背景にあると思われる。現在日本が段階的な往来の再開を検討しているタイ・ベトナム・オーストラリア・ニュージーランドは感染の沈静化に成功した国だが、いずれも早い段階からかなり厳しい入国制限を課したことで知られる(このサイトが詳しい)。

抗体陽性率1%未満の事実を、私たちが依然としてウイルスに無防備な証と捉えれば、本格的な入国制限解除はまだずいぶん先になりそうである。個人的には早く海外との人的交流が再開することを心待ちにしているが、しばらくは我慢の日々が続きそうだ。

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