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まだら模様の国 [海外文化]

米国コロラド州に住んでいたとき現地で知り合った、アメリカ人のご夫婦がいる。離れて暮らすお二人の子どもたちと私たちの年齢が近かったせいか、感謝祭やクリスマスなど家族イベントにたびたび呼んで頂き、何かと可愛がってもらった。空軍大佐を退役した貫禄満点の紳士と、亭主関白な夫をふわりと支える優しい奥様で、まるで古き良きアメリカを絵に描いたようなご夫妻である。

彼らと大の仲良しの夫婦が、隣町に住んでいた。こちらのお二人は、かつて大使館に勤務していた実直なご主人と、原色ファッションを華麗に着こなす豪快な奥様だ。お二人の一人娘が結婚することになり、大佐が友人のため式で演奏をするボランティアを探していたのがそもそも出会いの縁であった。その後も折に触れて家族の団らんにご一緒させてもらったが、二組の初老夫婦のやりとりがとにかく面白い。大佐は筋金入りの共和党支持、対して大使館氏は民主党支持、そもそも軍事と外交という国と国との関係において対照的な立場でキャリアを全うした二人だ。政治的信条が一致するわけがないのだが、そんな違いを互いにいじって笑い、和気あいあいと盛り上がるのである。

landmark_washington_monument.png昔からアメリカという国は保守とリベラルに二分され、残る浮動票がどちらに着くかで国勢が決まる選挙を繰り返してきた。政治的・宗教的・倫理的価値観のズレが絶えず論争の種になりながら、それでもちゃんと国が成立してきたのは、個人のレベルでは「あっち側」の人とも楽しく付き合える米国人が少なくないからだ。青と赤で塗り分けられた米国地図が一色に染まる日は永遠に来ないとわかりきっているからこそ、まだら模様をありのまま受け止めようとするおおらかさが、アメリカという国の輝きの源泉なのである。しかしトランプ大統領はそんな社会の糊しろを好まず、折り悪くコロナ禍の打撃で人々は気持ちの余裕を失いがちだ。大統領選の結果が何であれ、米国らしい豊かな包容力を彼ら自身の手で破壊して欲しくない、と切に願っている。

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