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スウェーデンのコロナ対策は失敗したのか [科学・技術]

秋口に入った頃から世界のあちこちで新型コロナ感染が急速に再拡大しており、日本も例外ではない。新規感染者が1日あたり1,700人台と国内記録を更新しているが、数万人規模の欧州主要諸国や10万人超のアメリカと比べれば依然として1桁から2桁少ない。GoToキャンペーンたけなわのまま低温低湿の季節を迎えているので感染が広まるのは当然だが、再びロックダウンに入ったイギリスやフランスの人々の目には、街中を人々が普通に行き交う日本の光景は摩訶不思議な桃源郷のように映るかもしれない。

coronavirus-data-US_Sweden.pngもちろん、欧州にも社会が通常営業に近い形で動いている国がある。スウェーデンはその筆頭だ。春先の第一波のときは高齢者施設を中心にコロナ死亡率が高かったが、敢えて強い規制をかけない独自路線を貫いた。約20%の抗体保有率に加えて細胞性免疫が機能している感染経験者が一定数いるとかで、スウェーデンは集団免疫を獲得しつつあるのではと囁かれていた頃もあった(国策が集団免疫を目指していたわけではない)。ところが9月末頃から、スウェーデンの感染者数が急激に上昇し始めた。試しに人口100万人あたり日々の新規感染者数を米国と比べると(Our World in Data)、夏場の第2波を見事に回避したスウェーデンが直近では米国と肩を並べる水準に追い付いてしまった。日本の人口に焼き直せば、毎日4万か5万人近い感染者を出しているに等しい。集団免疫説は夢想に過ぎなかったことになる。

今月の初め、スウェーデン政府の感染対策担当者テグネル博士が日本記者クラブでオンライン会見を行った。その際に質疑の回答で「スウェーデン政府は国民にマスク着用を推奨しない。欧州でマスクを義務化した国でも感染を防げていないから、マスクは解決にならない。」と述べたと報道された。これだけ聞くと、トランプ大統領レベルの科学リテラシーかと心配になる。しかし会見の様子を動画で確認すると、彼は必ずしもマスクが無意味だと言っているわけではない。日本と違ってマスクで出歩く文化のない欧州では、マスクを強要する政策は実効性が低く、ソーシャルディスタンシングを徹底することで感染回避を図るほうが現実的だ、というのが真意のようである。

夏を無事に乗り切ったスウェーデンに、今何が起きているのか?夏休みが終わって職場に戻ってきた人たちが密を作りやすい状況を生んでいるのでは、と推測する記事がある。寒くなってきた上にぐんぐん日が短くなり、屋内で過ごす時間が増えて換気やソーシャルディスタンシングが難しくなっている要素もあるだろう。高緯度の国ほど夏から冬に向け日々の生活様式(紫外線の照射量も?)が大きく変わるが、急激な行動変容で増大するリスクを読みきれず、パンデミック後初めて迎える冬に備えが少し甘かったということかも知れない。

来年オリンピックがどのような形で開かれるのか(またはそもそも開催できるのか)まだわからないが、マスクに心理的抵抗の強い文化圏の人たちをどう迎え入れるのか、頭の痛い課題なのではと思う。欧米人の中には、単に新型コロナの知識と意識に乏しいというだけでは説明のつかない、マスクに対する根深い拒絶感を持つ人が少なくないようである。ファクターXの正体はまだ答が出ていないが、結局のところマスク着用習慣の普及率が重要な鍵の一つを握っている気がする。前述のテグネル博士はスウェーデンでマスクを義務化する展望には否定的であったが、その可能性を完全には否定しなかった。ソーシャルディスタンシングの要請だけで北欧の国が暗く長い冬を無事に乗り越えられるのか、一つの壮大な社会実験として動向に注視したい。

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