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「主食」は英語で? [語学]

food_gohan_hakumai.png「主食」は英語でなんと言うの?と尋ねられ、うまい訳語が思い浮かばなかった。一見すると語感が近そうな「main dish」は、コース料理等の主菜のことなので意味が違う。日本人の主食は何かと聞かれれば大抵の人は米ですと答えると思うが、メインディッシュに皿いっぱい白米が盛られて出されたりはしない。考えてみると、英語圏の人たちにとっての主食は何か、パンかもしれないしイモかもしれないが、コメに匹敵するほど自明な鉄板食品が思い至らない。たぶん、主食という概念がそもそも希薄なのではないか。辞書的に訳すならstaple foodだそうだが、日常会話であまり耳にしない言葉だ。この話題は調べてみるとネットのあちこちに転がっているので、同じく疑問に思っている人は多いらしい。

主食の対語は副食(おかず)だが、おかずの英訳もまた厄介だ。「side dish」と訳す翻訳エンジンもあるが、主食がmain dishでない以上これも正しくない。side dishは「付け合せ」であっておかずではない。ステーキがメインディッシュなら、脇に控えるポテトがサイドディッシュだ。同じ炭水化物どうし、白米がポテトの立ち位置ということなら、主食のライスがside dishでおかずがmain dishということになる。ますますよくわからない。

和食においてご飯は至高の地位にある。ホクホクに炊きあがった白飯の程よい歯ごたえとほのかな甘み、決して出しゃばらずどんなおかずとも相性が良い慎ましさ、しかしそこに無いと絶対に困る食卓の要。米は農家が八十八の手間を惜しまず育てた賜物、などと言われると茶碗のむこうに後光が差して見える。こだわりの強さではフランス人にとってのバゲットも相当なものだが、フランス語にもたぶん日本の「主食」に相当する概念はない。フランスパンはあくまで前菜やスープやメインディッシュのサポートだ。一汁一菜という言葉に象徴されるように、ご飯とおかずが対等に渡り合う緊張関係は和食独特の美学ではないか。

おかずがないと物足りないが、おかずだけでは成り立たない。主役であって脇役でもあり、そこにいるのが当たり前ながらひときわ格別の存在でもある。その全てを凝縮し表現した言葉が、日本の「主食」だ。一言で翻訳できるわけがない。

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