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ワクチンを打たない権利 [社会]

コロナワクチン接種に消極的な人が、日本にも一定数いる。副反応への不安が、気後れする原因の一つのようである。大抵の副反応は痛みや発熱の類で数日で全快するが、稀に重篤な症例が現れる。お父上を見舞った重い副反応を報告した男性のSNSが、さまざまな反響を呼んだらしい。重大事案の情報共有はもちろん大事だが、大多数の副反応は普通すぎてニュースにならないから、目につく情報だけをつまみ食いすると不安は増す一方かもしれない。

どのような事例がどのくらいの確率で起こるのか、行政主導できちんとデータをまとめたほうがいい。例えばアナフィラキシー・ショックについては、ファイザーやモデルナのワクチンでは10万に1回未満とされる。一方、コロナで亡くなった人は日本国内で1万4千人くらいで、1万人に1人だ。既往歴のある人を除けば、アナフィラキシーが怖いからワクチンを打たないという選択にあまり合理性はない。

ワクチンは自分自身を感染から守るほか、社会全体への感染拡大を抑制する効果が期待される。7-8割の人が打てば集団免疫が成立するというから、自分は打たずに残りの2-3割に入ればよい、というタダ乗りの発想もあり得る。ただ日和見主義の人が多すぎると集団免疫に届かないので、「囚人のジレンマ」のような話になる。絶対にワクチンを打ちたくないという人の中には、副反応がどうしても不安な人のほか、各種ワクチン陰謀論を真に受けている人もいる。不安であることは罪ではないし、わけのわからない迷信を信じる自由も保証されているから、ワクチンを打たない権利はもちろん認められる。

kitsuenjo_mark.pngここでちょっと喫煙の話をしたい。タバコは自分自身に対する健康リスクであると同時に、周りにいる人に受動喫煙の害を及ぼす。それで今では、喫煙が許されるスペースはかなり限定されている。飛行機の中など、タバコを一切認められない空間もある。喫煙の権利は憲法が保証する基本的人権に含まれるか、という話は真面目な法律論として議論があるようだが、嫌煙家の権利も絡むからややこしい。大半のスモーカーは社会の決まりごとを受け入れ、吸いたくなったら人目を忍ぶように喫煙スペースに直行していると思う。その肩身の狭さが、タバコを隠れて吸う中学生をちょっと思わせる。

ワクチンを打たないことは、選択の自由であると同時に、社会全体の感染抑止に参加しない未必の故意でもある。個人の権利と公共の利益をどう両立させるかという緊張関係が、どこか喫煙者の権利問題に相通じる。ワクチンパスポートに異を唱える人の中にワクチン差別を口にする人がいるが、それを言うなら狭い喫煙室に押し込まれるスモーカーたちは謂わばニコチン差別か。でも喫煙者を社会の差別から守れと声を上げる人は、(当事者たちの悲哀に満ちたボヤキを別にすれば)ほとんど見当たらない。

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