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一滴のしずく [社会]

wave_nami2.pngユルめのスケボー解説が人気の瀬尻稜さんの表現を借りれば、東京の感染拡大が「鬼ヤバい」ことになっている。気がつけば、記録をあっさり更新していた。五輪無観客にもかかわらず、7月下旬に都内の新規感染者数が連日3,000人を超えるなどと、誰か予測していたっけか?

高齢者にワクチンが普及したおかげで死者数が増えていないから、感染が広がっても問題ないという見立てがある。たしかにひと頃に比べると、コロナで亡くなる人はずいぶん減っている。ワクチンの最終的なゴールは、(理論上は)集団免疫で新型コロナを「ただの風邪」かせめてインフルエンザ程度にすることだから、ようやく希望の光が見えてきた。しかし、死者さえ出なければ良いわけでもない。東京都のコロナ入院患者はジリジリ増え続けており、今や3,000人を超え正月明けのピークに迫りつつある。ちなみにインフルエンザの入院者数は、大流行した2018‐19年シーズンでも都内のピークが200人ちょっとだったから(東京都感染症情報センターより)、新型コロナがインフル並みに落ち着く日はまだ遠い。効きの悪い緊急事態宣言をだらだら続けるのがいいとはまったく思わないが、手放しで感染拡大を放置するには、日本の接種完了率は依然として低すぎる。

Agoopのデータを見ると、直近一ヶ月のあいだに都内で人流が目立って増加しているのは、高尾山くらいである(夏休みで家族連れハイキング需要が急増したか)。都心の繁華街はおおむね横ばいか微減傾向で、その意味では緊急事態宣言が全く効いていないわけではない。それにしても、人出は増えていないのに新規陽性者数が急増しているのは、なぜか?官邸サイドには、人流が減っているから大丈夫という寝ボケた観測があるようだが、裏を返せば人流抑制ではもはや感染を制御できないということだから、問題の根はむしろ深い。

今までも、人流と感染状況の動きがいつも連動していたわけではない。正月明けの第3波では、都心から人が消えていた年末年始にむしろ感染が跳ね上がった。このときはおそらく、夜の街ではなく帰省先の親戚団らんが感染の温床だった。今回も、誰かの家に大勢で集まりTV観戦に盛り上がっているケースもあるかも知れないが、それだけなら全国どこでも事情は同じだ。感染発生は首都圏に集中しているから、震源地の東京に何かきっかけがあるはずである。

人流を川に例えるなら、感染のきっかけを作るウイルスはその上流で混入する異物のしずくだ。初めはごく微量の不純物でも、放っておくとたちまち増殖し川面いっぱいに広がる。下流の街を守るために水門で流れを堰き止めてしまうのがロックダウンで、水源地で異物の混入を地道に阻止するのが水際対策である。欧米はたびたび大胆に水門を閉めたが、ニュージーランドや台湾は水質管理を徹底して川の流れはなるべく止めない独自の政策を取った。後者は経済へのダメージや社会の閉塞感を最小限に抑えられるが、一滴のしずくがうっかり紛れ込んだとたん、急流に乗ってたちまち下流まで拡散する危うさを抱える。台湾でこの5月に発生した唐突な感染拡大は、その顕著な一例であった。

菅総理は人流は減っていますと涼し気だったが、人流と感染急増が噛み合っていないからこそ急いで要因を分析すべきだと、なぜだれも進言しないのか。川が増水したわけでもないのにみるみる水の色が変わり始めたら、上流で誰かが何かを入れたということだ。急拡大が始まったタイミングから察して、五輪バブルの割れ目からぽたぽたと滴り落ちるしずくが東京の第5波に油を注いでいると考えるのが、いちばん理にかなっている。G7後にコーンウォールで起きた感染拡大を思い出すが、東京は人口規模が桁違いだ。オリンピック主催側は誰も責任を認めないだろうが、うやむやに流しているとパラリンピックの実現可能性がシャレでなく鬼ヤバいことになるかもしれない。

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