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ピークアウト [語学]

枕詞で「感染拡大が止まりません」と言うニュースキャスターが少なくない。嘘ではないが、ちょっと浅薄な表現かなと思う。感染者数は依然として増えてはいるものの、実効再生算数はだいぶ前から減り続けている。つまり感染拡大の速度は鈍ってきているわけで、「止まりません」というほど悲観的な状況でない。2月上旬をピークに新規感染者数は減少に向かうという見立てもあるようで、本当にそうなるのか誰にもわからないが、希望的観測としては早く落ち着いてほしい。

graph10_oresen1.png新規感染者数が山場を越えると「ピークアウト」したなどと言ったりする。試しにちょっとググるとこれは和製英語だという見解が大勢を占め、このニュアンスでpeak outと言うのは誤用という意見が主流だ。peakを動詞で使うときは関数などが最大値を取る意味になり(the function peaks at x=3)、頂点が突き出るイメージを強調するためにpeak outと言うことはあるが、山場を越すニュアンスとは違うということである。同じ発音でpeek outという全く別の言葉があって、物陰から外を覗く意味のほかスマホがポケットからぴょこっと顔を出している場合にも使える。outが飛び出すイメージを喚起しているわけだ。

ただ、日本語で言うピークアウトが必ずしも英語として間違いとは言い切れない。昨年の夏の話だが、アメリカ国立衛生研究所(NIH)所長のコメントにこんな表現がある(参考)。
This is going very steeply upward with no signs of having peaked out.
Thisとは(今や懐かしい)デルタ株の新規陽性者数のことで、明らかに「頭打ちになったという兆候はない」という意味でピークアウトと言っている。他にも、(私の誤読でなければ)株価の動向が天井を打ったという文脈でピークアウトを使う記事はいくつか見つかる(例1例2)。いずれの例でも完了形になっているのがミソで、「have peaked」と言うだけでピークは過ぎた読めるところを、敢えてoutで強調している。

outには物理的に「外」を意味するほか、ものが消えて無くなる意味合いでも使う。吹雪で視界が真っ白になるwhiteoutとか、停電で真っ暗になるblackoutがその例だ。論文を書くときに重宝するout関連の言い回しがいろいろあって、二つ以上の効果が相殺してチャラになるcancel out、数値を平均しデータの凸凹が取れるaverage outなどはよく使う。本来なら、ピークは越えることはあっても消えることはない。それでも敢えてpeak outと言いたくなるのは、コロナの高波が早く消え去ってほしいという人類共通の願いが図らずも滲み出すせいかもしれない。

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