SSブログ

Old Enough [海外文化]

otsukai_boy.pngNetflixで公開が始まった日本の老舗テレビ番組が海外で話題を呼んでいるらしい。番組の英語タイトルは『Old Enough』。老人が人生経験でも語るのかと思えばさにあらず、何を隠そうその正体は『はじめてのおつかい』である。英国メディア(Guardian)と米国メディア(CNET)がレビューを書いているが、その戸惑いぶりが面白い。

日本の「はじめてのおつかい」は数時間ぶっちぎりで放映されることも多いが、ネトフリでは20分未満に刻んで放映しているようである。一回当たり一エピソード限定ということか。幼い子供が時に小さな胸を張り、時にとことん駄々をこね、最後には買い物袋をずるずる引きずり半べそで帰ってくる。そしてそれを迎える親が子供以上に号泣する。視聴者の涙腺を崩壊させる感動スイッチは万国共通のようだが、CNETの米国人ライターは番組を概ね好意的に評価しつつ「こんな小さな子たちを大人の目から離して大丈夫なのか」と困惑を隠し切れない。

私が米国コロラド州に住み始めたころ、まだ車がなかった私の必需品買い出しのためアメリカ人の同僚が付き添ってくれた。当時シングルマザーだった彼女は、人懐こい一人娘を同伴してきた。大人が商品棚の前で会話に夢中になると、娘はついフラフラと彷徨いはじめる。目が届くうちは良いのだが、子供が通路の角に姿を消したとたん同僚は血相を変え、おざなりに「Excuse me」と呟くや娘を連れ戻しに猛然と走り出した。小さな田舎町で凶悪犯罪などめったに起こらない土地柄ではあったが、安全に対する緊張感が日本とは全く違う事実を目の当たりにした瞬間であった。

もちろん「はじめてのおつかい」の制作チームは安全面に細心の注意を払い、通行人に扮したスタッフがやたらと子供の周りを徘徊する。上記の英米メディア記事でも番組側の配慮は認めているのだが、そもそも幼児だけでお使いに送り出すというコンセプト自体が彼らの文化圏では考えられないのである。乱暴な例えを許してもらえるなら、三歳児にバンジージャンプのハーネスを括り付けて高台から突き落とすドキュメンタリーを見せられているような残酷性を感じるのではないか。いくらバンジーの設備に安全性が担保されているとはいえ、シチュエーション自体に心理的な抵抗があるのだ。

もう一つ面白いと思ったのは、いずれの記事も日本独特の番組演出に言及している点だ。字幕をやたら多用する作りがGuardianの記者には少し目障りのようだ。一方、子供の心の声を代弁する「生意気系」ナレーションをCNETのライターは面白がっている。ちなみに、私が在米時に現地のテレビでよくやっていた日本の番組と言えば、『風雲!たけし城』と『料理の鉄人』であった。『Sasuke』も結構人気があって、『American Ninja Warriors』という米国版の模倣番組が存在する。

世界が受容する日本のエンタテイメントは何かと考えるとき、ジブリやポケモンのような王道を別にすれば、雑多なサブカルチャーの一群がひしめいている。そこに『はじめてのおつかい』がどこまで食い込むのか、今後の健闘に期待したい。

共通テーマ:日記・雑感