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世界の縮図 [科学・技術]

国際宇宙ステーションISSに合流したロシアの宇宙飛行士3人が「ウクライナ色」のユニフォームに身を包んでいたことが話題を呼んだ。飛行士本人はその意図を否定し、彼らの出身校のシンボルカラーであるとか黄色の素材が余っていたからとか理由を説明したようである。そもそも宇宙飛行士用スーツは特別なあつらえ品で、打ち上げ半年前には着衣の色を決めているそうである(Guardian紙)。確かにユニクロの店頭で急遽調達できるような既製品のはずはないから、本人の弁明通り偶然の一致と見るほうが自然と思われる。とは言えこの情勢下でロシアの飛行士が予定通りISSに派遣され、欧米の飛行士と笑顔でハグを交わす映像には、考えさせられるものがあった。

ロシアの宇宙開発事業を担う国営企業ロスコスモスのトップ(ロゴジン氏)が、諸外国の対ロシア制裁に反発してなかなかはじけたコメントを連発している。その一つが、ロシアが手を引けばISSは地上に落下するという「恐喝」である。確かにISSのロシア区画は軌道制御を担っているが、放っておいてもISSがすぐに落ちてくることはない。月が地球に落ちてこないのと同じことである。ISSくらいの高度だとわずかに大気摩擦があるので何年も無制御で放置すればいつかは落ちるかもしれないが(ウクライナ侵攻と関係なくISSは2030年頃に運用を終了し太平洋に突入させる計画のはずである)、飛行機が墜落するような喫緊のリスクはまずあり得ない。

majo_cat_houki.png欧米の宇宙飛行士は今後は「箒にまたがって」ISSに行くがよい、とは同じくロゴジン氏の迷言である。ロシアのソユーズロケットはISSへの人的輸送を担う主要手段の一つであり(前澤友作氏もソユーズの乗客であった)、またロシア製エンジンは欧米のロケットの一部にも使われているそうである。何年か前であれば宇宙開発インフラにおけるロシアの優位性は明らかだったが、スペースX社のクルードラゴンが実用化している今では、ロシアの輸送サービスは必ずしもISSの維持に不可欠ではなくなった(以前この話題に触れた)。もっとも、ロシアの存在感が完全に消滅しているわけではない。欧州の衛星打ち上げ事業は部分的にソユーズに依存しており、私が仕事で少し関わる日本の地球観測衛星計画もその影響と無縁ではない。

ISSは、軌道上を周回する世界の縮図である。現時点では米露独の飛行士たちが滞在しており、考え方や立場は違うかもしれないけれど、それはさておき力を合わせミッションに取り組むプロフェッショナルである。そうでないと、小さな宇宙ステーションで生きていくことはできないからだ。地球はISSよりずっと広いけれど、人々が肩を寄せ合って生きている唯一無二の世界である点において、つまるところ巨大な宇宙ステーションのようなものだ。自分の意のままにならない隣国を力で潰しに行けば、巡り巡って自分も立ち行かなくなる。一度プーチン大統領とロゴジン氏をISSに送り込んで、そういうことを身をもって思い知ってもらってはどうか。

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